広島地方裁判所 昭和42年(ワ)185号 判決 1968年9月06日
原告 空多一雄
右訴訟代理人弁護士 橋本保雄
被告 五日市町
右代表者町長 大前茂樹
右訴訟代理人弁護士 馬場照男
主文
被告は原告に対し金八二三、九〇〇円およびこれに対する昭和四二年三月一七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その二を原告、その余を被告の負担とする。
本判決は原告勝訴の部分に限り仮にこれを執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金二、八八〇、〇〇〇円、およびうち金八八〇、〇〇〇円については昭和四二年三月一七日から、残金二、〇〇〇、〇〇〇円については昭和四二年九月五日から、それぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
(一) 原告は昭和四一年一一月二六日午後四時三〇分ころ、自己所有の軽自動車(広き〇三二九号)を時速約一〇キロメートルの速度で運転して、広島県佐伯郡五日市町所在の明治製菓株式会社広島工場前県道上からこれと丁字路をなす町道へ左折した時、右町道に存する被告町設地下消火栓の取手に前記車両の下部が引掛り、急停車の状態となったため、その衝撃で車体を破損し、且つ頭部に打撲傷を受けた。
(二) 右事故は被告町の設置保存にかかる右地下消火栓が道路面より五センチメートル以上の高さに設置されていたこと、及び右消火栓の取手が立っていたために惹起されたものであり、その原因は全て被告町の工作物の設置保存の瑕疵によるものである。
(三) 原告は右事故による頭部打撲症のため現在も頭重、めまい、頭痛が続き、半病人のような状態で満足にプロパンガス販売の家業にはげむことができず、しかも右症状は日を経るに従って重くなって行き治癒の見込も立たないため、家業も廃止せざるを得ない状態に追いつめられているのであって、右による精神的苦痛を慰藉するには金二、七〇〇、〇〇〇円をもってするのが相当であり、また物的にも前記自動車が破損し廃車同然となったため金一八〇、〇〇〇円の損害を受けた。よって原告は被告に対し請求の趣旨記載のとおり右損害の賠償金とこれに対する遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。
と述べ(た。)証拠≪省略≫
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、
請求の原因(一)は不知、(二)のうち地下消火栓が被告の設置保存にかかるものであることは認めるがその余は否認する、本件事故は原告の自動車の構造上の欠陥によるものである、(三)は否認する。
と述べ(た。)証拠≪省略≫
理由
一、原告主張の道路個所に地下消火栓が設置されていること、それが被告の設置保存にかかるものであることは当事者間に争いがない。そして≪証拠省略≫によれば、昭和四一年一一月二六日午後四時三〇分ころ、原告が本件自動車を運転して五日市町明治製菓株式会社広島工場前を南北に通じる県道上を同所で左折して右消火栓の設置された町道個所にさしかかった時、右消火栓の鉄筋取手に右自動車の下部に装置されているフロントセンター・スプリング調整ネジが引掛り、急停車の状態となる事故の発生したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
二、≪証拠省略≫によれば、右消火栓は幅員四・五メートルの町道のほぼ中央に位置していることが認められ、従って自動車等が右道路を通行する場合右消火栓の上を通過することは一般に予想されるところであるから、右消火栓は本来道路平面より突出することのないよう設置保存さるべきものであるところ、≪証拠省略≫によれば、本件事故当時自動車両輪の通過する右消火栓の両側の土が右消火栓平面から北側約五センチメートル、南側約二ないし三センチメートル程えぐられた状態であったこと、及び鉄筋の取手は、これを落した状態においても右消火栓の蓋の表面より約一センチメートル程高く設置されており、従って取手はその真上を通過する自動車の底部に向って約四ないし五・五センチメートル突出した状態であったこと、しかも右消火栓の東側すなわち県道寄りの個所は約一〇センチメートル程道路の土がえぐられた状態であったため、その方面から自動車が進行して来た場合のバウンドによる車体の沈下を考慮すれば危険の度合はより高くなることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
三、上来認定の事実関係によれば右消火栓はその設置保存に瑕疵があり、かつ本件事故は右瑕疵に起因するものであるというべく、後記認定の如く原告の自動車に整備上の欠陥があったとしても、被告は本件事故による責任を免れることはできない。
四、ところで≪証拠省略≫を考え合せると、当時原告は本件自動車にプロパンボンベ七本、重量にして約一四〇キログラムを積載していたことが認められるが、≪証拠省略≫によれば本件自動車の車種における前記調整ネジの先端から地面までの距離の正常値は一八・五センチメートルであり荷台に一四〇キログラムの重量及び運転席に五四キログラムの重量を加えた場合の右値は一一センチメートルであることが認められ従って本件自動車が右正常値を保っていたならば前記認定のとおり四ないし五・五センチメートル突出した消火栓に対してはバウンド等の要素を加味しても容易にこれと接触するものとは考えられないものであるところ、この点≪証拠省略≫によれば事故当時本件自動車と地面との右距離は空車で一二・五センチメートル、運転席に一人塔乗したときは一〇・五センチメートルまで下ったことが認められ、右事実からすると更にこれに一四〇キログラム程度の重量が加わったときは前記高さの消火栓取手に容易に接触する程度にこれが下がるであろうことを推認することができるのであって、本件事故については原告にも本件自動車の整備につき一面の過失があったというを免れず、右認定を左右するに足る証拠はない。もっとも、右取手が浮き上った状態にあれば、たとえ原告自動車の整備が完全であったとしてもなお事故発生の危険があったと考えられ、原告は右取手が浮いていたと主張するのであるが、これを認めるに足る証拠はない。
五、そこで本件事故によって原告が受けた損害を算定するに、
(一) ≪証拠省略≫によれば、本件自動車は本件事故の約一年前に原告が約一年間使用済の中古車として約二五万円で購入したもので、新車であれば三一万円位するものであり、本件事故当時は約一八万円相当の価値を有するものであったが本件事故によってフレーム及びその他の補器が曲り、修理して使用するにも相当多額の費用を要し、むしろ買換えた方が経済的である程度の損傷を受けたため、原告はこれを三千円で下取りに出し、従って原告は一七七、〇〇〇円相当の損害を受けたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
(二) また≪証拠省略≫によれば、原告は本件事故によって頭部外傷を受けてその場に失神し、直ちに共立外科医院に収容されそこで二日間入院治療を受け、その後も引続き永島外科医院に通院治療を受けているが、事故後一年半以上を経過した現在も頭重、めまい、頭痛が続き、治癒の見込は立ち難い情況にあること、及び原告は現在三八才でお好み焼きの店を営む妻と九才及び五才の二児をかかえてプロパンガス販売業を営み、自ら注文取りや商品運搬にあたっているものであるが、右症状のため右営業に重大な支障を来たしていることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はないところ、これら諸般の事情を考慮すると、本件事故負傷による原告の精神的苦痛を慰藉するには一、〇〇〇、〇〇〇円をもってするのが相当である。
(三) 以上原告の受けた損害は(一)(二)合計一、一七七、〇〇〇円のところ、前記認定のとおり原告にも一面の過失があり、原告も右損害の一〇分の三を自ら負担するのが相当であるからこれを差引くと被告の賠償すべき損害額は八二三、九〇〇円というべきである。
六、よって原告の本訴請求のうち、被告に対し右金額及びこれに対する本件事故の発生した日の翌日以後である昭和四二年三月一七日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当としてこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 胡田勲)